
![]()
よんどころない事情で、実家の権利関係を調べることになったUさん。
いつも、役員変更登記をお願いしている司法書士に、登記簿謄本を取って貰うよう、電話で依頼した。
事業を興す際に、父親の不動産を担保として提供してもらったんだっけ。父親が、なかなか「ウン」と言ってくれず、説得に苦労したものだ。
そういえば、その後、担保の抹消登記をした。その際の登記簿謄本があるはずだ。
その後、5年間は、借入をしたことがないし、住所だって変わっていないから、何の変更箇所もないはず。
だが、万が一のことを考え、最新の状態を確認しておきたかった。
最近では、インターネットでも登記事項が確認できるらしいが、それには契約が必要だし、契約が必要なほど、登記簿を確認する機会はない。
閑話休題。
父の所有する不動産は、土地と建物、それに家の前の私道部分の共有持分がある。それを司法書士に知らせようとしたが、知らせるまでもなく、事務所に「以前の記録が残っていますので、それを手掛かりにします」と言われた。
夕方になって、件の司法書士から電話が入った。
「根本的には、5年前の抹消登記以降変わっていませんが…」
司法書士が、語尾を濁したのが気になった。
「何かあったのですか?」と、恐る恐る尋ねると、
「実は、お隣のSさんが、4年前にF銀行で抵当権を設定したのですが、その抵当権が、Uさんのお父様の私道部分にも及んでしまっているんです」
「!?」、「どういうこと?」
私道部分は、たしか、父親と、お隣のSさんが1/2ずつのはず。だが、Sさんが借入をする際に、そんな話が父の所にきたとは聞いていない。
「Sさんが、黙って、もしくは故意に、父の持分にまで抵当権を設定したのですか?」
ご近所トラブルなんてよく聞くが、Sさんと父の間に、トラブルがあったとは聞いていない。だから、Sさんが勝手に登記をするということは、考えられない。
はやる気持ちを抑え、司法書士の返事を聞いた。
「管轄登記所のP出張所は、3年前に、従来の簿冊式の登記簿から、コンピュータ式の登記簿に変更されました。これを『コンピュータ移記』といいます」
司法書士は、話を続けた。
「その移記作業の際に、『登記の目的』について、本来であれば『S持分抵当権設定』となるのが正しいのですが、『S持分』という表記が抜けてしまったみたいです」
「『S持分』という記載があれば、この抵当権は、Sさんの持分にしか及びません。しかし、『S持分』という記載がない以上、お父様が所有している部分にも、登記上は抵当権が及んでしまっていることになります」
| −解説− *下図はあくまでもイメージです ![]() ▲「共有」の場合、「全体」のほか、「持分」にだけ、抵当権を設定することが出来る。Sさんが、F銀行から借入をした際の抵当権は、本来であれば、上図のように「S持分抵当権」となるべきだった。 ![]() ▲ところが、今回の場合、「S持分」という言葉が抜けてしまったがために、SさんのF銀行の抵当権が、私道全体に及んでしまった。 |
Uさんは、分かったような、分からないような、不思議な気持ちになった。
「では、先生、一体どうすれば良いのですか?」
司法書士いわく、
「もちろん、登記所の『コンピュータ移記』の際のミスですし、3年前に、コンピュータに切り替わる前の登記簿を見れば、間違いであることは、証明できます」
「実は、既にP登記所には、訂正をお願いしています。2〜3日後に、訂正作業が終わるとのことですので、終わり次第、正しい表記がなされた謄本をお届けします」
それを聞いたUは、胸を撫で下ろした。
それにしても、こんなことがあるのか。
後で教えてもらったところ、抵当権設定登記の際には、所有者の印鑑証明書と権利証が必要らしい。
ところが、今回の私道について、Uの父親はそれらの書類を一切用意していない。
なのに、父親の私道持分についてまで、Sさんの抵当権が及んでしまった。
Uさんは、万が一のことを考えて、最新の登記簿謄本を取って良かったと思った。

なお、詳しいことにつきまして、また、ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なくお問い合わせ下さい。